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研究成果

鎖が引力でつながった原子層薄膜の構造相変化を発見
―三次元、二次元材料を超える超微細高機能材料実現に道―

【ポイント】

  • 一次元鎖が弱いファンデルワールス(van der Waals:vdW)力でつながった厚さ原子1個分の一次元ファンデルワールス(1D-vdW)材料(注1)のテルル化ニオブ(NbTe₄)薄膜が、鎖間の間隔であるvdWギャップが変形するシャフリング変位(注2)を示し、相変化することを明らかにしました。
  • この相変化で絶縁体-金属転移(注3)が生じて3桁もの電気抵抗変化を示し、情報メモリデバイスへ利用できる可能性を実証しました。
  • 1D-vdW材料の相制御による次世代の超微細電子デバイスや量子デバイスの革新が期待できます。

【概要】

半導体の進化は、私たちの生活をますます発展させる可能性を大いに秘めています。情報の爆発的な増大に伴い、超微細な電子デバイスの実現が求められる中、次世代の材料として注目されているのが、一次元ファンデルワールス(1D-vdW)材料です。現在、次世代の微細半導体としてグラフェンに代表される二次元(2D)-vdW材料(注4)に関する研究が盛んに行われていますが、1D-vdW材料によってさらなる高機能化が待ち望まれています。

東北大学大学院工学研究科の双逸助教(材料科学高等研究所:WPI-AIMRおよび高等研究機構新領域創成部兼務)と須藤祐司教授(WPI-AIMR兼務)らは、代表的な1D-vdW材料であるテルル化ニオブ(NbTe4)薄膜が1D-vdW構造の変化(構造相変化)により3桁に及ぶ大きな電気抵抗変化を示すことを見出し、情報メモリデバイスに応用できる可能性を実証しました。1D-vdW構造制御による電気的特性に加え、光学的特性もコントロールできれば、次世代エレクトロニクスやオプト(光)エレクトロニクスデバイスへの1D-vdW材料の応用を加速させ、今後の半導体技術の進化に大きな影響を与えると期待されます。

本成果は、2025年3月20日付(ドイツ時間)に材料科学分野の専門誌 Advanced Functional Materials のオンライン版で公開されました。

【研究の背景】

現代の半導体技術は、より一層の微細化かつ高性能化が求められており、次世代デバイスの実現には新しい材料の探索とその精密な制御が欠かせません。特に、構造が特定の次元に制限されている低次元材料はその特異な物理的特性により、次世代半導体デバイスに革新をもたらす重要なキーマテリアルとして注目されています。

近年、2D-vdW材料の研究が急速に進展し、グラフェンや二硫化モリブデン(MoS2)といった材料は、高い電気伝導性や優れた光学特性を持つことが確認され、シリコン(Si)デバイスの性能を凌駕するトランジスタ(注5)、メモリデバイス、センサーデバイス(注6)などが開発されつつあります。これら2D-vdW材料は、層間に弱いvdW結合を持ち、数原子層の厚さでも優れた特性を示すため、微細かつ高性能デバイスの発展に大きく寄与しています。しかし、2D-vdW材料にはいくつかの限界もあります。例えば、2D-vdW材料の構造は平面的であり、その特性の多くは面内に依存しています。

これに対して1D-vdW材料は、原子鎖方向には強い共有結合により原子が配列しながら、各鎖の間は弱いvdW相互作用によって結合しています(図1)。この1D-vdW構造は、量子効果(注7)を増幅させる能力を持ち、従来の2D-vdW材料とは異なる特性を示すと考えられます。加えて、一次元原子鎖周りのvdWギャップにより、構造の自由度が増し、電子的特性や機械的特性をより精密に調整できる可能性があります。この特性を上手に活用することで、原子層スケールの電子デバイスの実現が可能となり、従来の2D-vdW材料を凌駕する超微細電子デバイスへの応用が大いに期待されます。

しかし、1D-vdW材料に関する研究は端緒についたばかりであり、構造の安定性や構造制御による物性変化については未知な部分が多く、構造変化の出現については未だ不明でした。

【今回の取り組み】

東北大学工学研究科の双逸助教(材料科学高等研究所:WPI-AIMRおよび高等研究機構兼務)、須藤祐司教授(WPI-AIMR兼務)、安藤大輔准教授らは、NbTe4薄膜の1D-vdW構造が変化(相変化)することにより3桁もの大きな電気抵抗変化を示すことを見いだし、情報メモリデバイスへの応用可能性を示しました。

NbTe4は、一次元電荷密度波材料(注8)および超伝導材料(注9)としての特性も持ち、次世代半導体デバイスへの応用が期待されています。本研究では、大面積成膜可能なスパッタリング手法によりNbTe4薄膜を作製し、その構造の安定性や構造変化、それに伴う物性変化を評価しました。その結果、NbTe4薄膜の1D-vdW構造は、加熱によってMonoclinic相(単斜晶系、最小単位となる格子が平行四辺形からなる。略称はMono.)(光学バンドギャップ(注10):0.7 eV)からTetragonal相(正方晶系、最小単位となる格子の一部の面が正方形からなる。略称はTetra.)(光学バンドギャップ:0 eV)へと相変化を示すことを発見しました。また、その構造相変化は絶縁体-金属相転移を伴い、顕著な電気抵抗・光学特性の変化を示すことを明らかにしました(図1左)。さらに、高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)法による構造相変化領域の観察の結果、原子鎖内の原子の再配列と原子鎖のシャフリング変位により構造相変化が生じていることが分かりました(図1右)。具体的には、Monoclinic相におけるTe–Te相互作用が局所的なひずみと相間のカップリングを引き起こし、熱処理によって原子鎖が基板平行方向にシフトすることで、より均一なTe副格子が形成され、Tetragonal相へと変化します。この構造相変化のメカニズムは、2D-vdW材料における層全体の原子再配列とは異なり、個々の原子鎖レベルでの再配列が起こる点に大きな特徴があります(図2)。

さらに本研究では、この構造相変化を活用した情報メモリデバイスの実証にも成功しました。NbTe4薄膜を記憶層として使用し、高速電気パルスを印加することで、ジュール加熱を介したMonoclinic相と Tetragonal相の可逆的な電気抵抗スイッチング動作が可能です(図3)。このような構造相変化を利用したメモリ動作は、既に実用されている相変化メモリ(PCRAM)(注11)に類似した動作原理であり、1D-vdW材料の高速かつ安定した構造相変化を利用することで、超微細次世代不揮発性メモリ(NVM)(注12)の創成が大いに期待されます。

【今後の展開】

本研究では、大規模成膜が可能な一般的なスパッタリング成膜技術を用いて、二次元材料よりもさらに低次元なNbTe4材料の1D-vdW構造の相安定性および構造相変化現象を明らかにしました。1D-vdW材料における相変化の研究は世界的にも前例がなく、本研究がこの新たな研究領域を切り拓く最初の取り組みであり、1D-vdW材料を活用した革新的なデバイス開発(超微細化や超省エネルギー動作など)において重要なステップとなります。さらに、本研究で着目したNbTe4の特有のトポロジカル構造や電気特性は、さまざまな電子デバイスへの応用が可能です。特に、今回初めて発見されたMonoclinic相の半導体特性を活用した異方性電界効果トランジスタなどへの応用が期待されます。

今後、NbTe4をはじめとする他の1D-vdW材料も含めた1D-vdW構造制御技術をさらに検証することで、新しいデバイスアーキテクチャの開発が進むことが予想されます。

図1. (左)熱処理によって生じる、1D-vdW構造を有するMonoclinic相からTetragonal相への構造相変化に伴うNbTe4薄膜の電気抵抗変化(挿入図は1D-vdW構造を構成する単一原子鎖の模式図)。加熱によって相変化が起こり冷却しても元の構造には戻らないことが、薄膜の電気抵抗を測定することでわかる。;(右)Monoclinic相とTetragonal相の原子像と結晶構造。高速電気パルスを加えることで、高速に可逆的に2つの相を行き来できることがわかった。

図2. NbTe4薄膜の構造相変化メカニズム:(A)相変化途中のNbTe4薄膜の断面の暗視野TEM像(挿入図(下)は対応する領域の電子回折パターン);(B)(A)から選択したHAADF-TEM像;(C)(B)の相境界領域からの高倍率TEM像。上の画像は[001]Tetra.軸に沿って、下の画像は[101]Mono.軸に沿って観察したTEM像;(D)相境界付近の原子配置の模式図;(E)Monoclinic相(左)とTetragonal相(右)の結晶構造の模式図。

図3. NbTe4ベースの相変化メモリの可逆的な動作。

【謝辞】

本研究は、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR235T)、日本学術振興会(JSPS)科研費(JP21H05009、JP24K21668)、日本板硝子材料工学助成会(NSG財団)の支援を受けて行われました。また、本論文は「東北大学令和6年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受けました。

【語句解説】

(注1)一次元ファンデルワールス(1D-vdW)材料

原子鎖同士が微弱なファンデルワールス力(分子間力の一種)によって積層した半導体をファンデルワールス材料という。1D-vdWは、従来の二次元(2D)vdW材料(例:グラフェン)と異なり、一次元的な構造を持つ材料。原子が鎖状に配列し、鎖同士はvdW結合で弱く結びついている。

(注2)シャフリング変位

ファンデルワールス結合によるギャップが変形(シャフリング)すること。1D-vdW材料では、原子鎖の間にあるvdWギャップがあり、構造変化(相変化)に伴い、このギャップの幅や位置が変わる。

(注3)絶縁体-金属転移

物質が「金属的状態(電気を流しやすい)」と「絶縁体状態(電気を流しにくい)」の間を行き来する現象。今回の研究では、NbTe4薄膜が特定の相変化に伴って、絶縁体から金属に転移することを確認。

(注4)二次元(2D)-vdW材料

ファンデルワールス力によって、原子層が積層して結晶構造を構成している物質のことを指す。グラファイトは代表的な二次元層状物質である。

(注5)トランジスタ

トランジスタは、電流や電圧を制御する三端子素子で、主にバイポーラ接合トランジスタ(BJT)と金属酸化膜半導体トランジスタ(MOSFET)の2種類があり、増幅やスイッチングに重要な役割を果たしている。2D-vdW材料は、従来の三次元材料に比べて非常に高い電気的性能を発揮し、特に高い移動度とオン/オフ比を持つため、高速で低消費電力のトランジスタとして注目されている。

(注6)センサーデバイス

センサーデバイスは、物理的、化学的、または生物学的な環境変化を感知し、それを電気信号に変換するデバイスのことを指す。特に、センサー応用においては、2D-vdW材料が非常に高い感度や高速応答性を持ち、ガス、温度、圧力、光などの物理的・化学的変化を高精度で検出できる。

(注7)量子効果

物質やエネルギーの振る舞いが、古典的な物理法則ではなく、量子力学に基づく法則によって支配される現象を指す。量子力学は、非常に小さなスケール、例えば原子や素粒子のレベルで支配的な物理理論で、従来のニュートン力学では説明できない現象を指す。

(注8)一次元電荷密度波材料

電荷密度波とは、物質内部のひずみの波と電流を運ぶ電子の密度変化の波が同じ波長で一体となったものである。一次元電荷密度波(Charge Density Wave:CDW)材料は、一次元構造を持ち、電子の密度が周期的に変化する現象である電荷密度波を示す。この特性は、材料中で電子の相関が強く、特にナノスケールの電子デバイスにおいて重要である。

(注9)超伝導材料

超伝導材料は、温度を十分に下げることで、電気抵抗が完全にゼロになる特性を持つ材料である。

(注10)光学バンドギャップ

光学バンドギャップは、材料が光を吸収できる最小のエネルギー差を指す。これは、電子が価電子帯から伝導帯に励起されるために必要なエネルギーで、材料の光学特性に大きな影響を与える。

(注11)相変化メモリ(PCRAM)

相変化材料の結晶相(低抵抗)とアモルファス相(高抵抗)の間の電気抵抗変化を利用した不揮発性メモリ。従来のフラッシュメモリよりも高速・低消費電力。

(注12)次世代不揮発性メモリ(NVM)

次世代不揮発性メモリ(NVM)は、電源を切ってもデータが消えない特性を持ち、主に相変化メモリ(PCRAM)や磁気メモリ(MRAM)や抵抗変化メモリ(ReRAM)などが含まれる。これらの技術は、従来のフラッシュメモリよりも高速な書き込み速度、低消費電力、高耐久性を提供できるため、次世代のコンピュータやストレージデバイス、モバイル機器において重要な役割を果たすと期待されている。

【論文情報】

タイトル:
Phase Engineering of a 1D van der Waals Thin Film
著者:
Yi Shuang*1, Daisuke Ando and Yuji Sutou*2
*責任著者:
*1東北大学大学院工学研究科 助教 双 逸
*2東北大学大学院工学研究科 教授 須藤 祐司
掲載誌:
Advanced Functional Materials
DOI:
10.1002/adfm.202503094
URL: