【発表のポイント】
- 圧電材料のナノ粒子(圧電ナノ粒子)を分散したプラスチックを炭素繊維強化プラスチック(CFRP)上に積層することで、強度の向上と電力の安定確保を実現しました。
- 曲げ振動を受けるCFRPを用いてLEDを点灯させ、センサ情報を電源フリーでワイヤレス送信することに成功しました。
- CFRP製のスポーツ・レジャー製品、航空・宇宙システムで利用されると期待されます。
モノのインターネット(IoT)(注1)センサの電源として環境発電(注2)の利用が期待されています。環境発電を行う材料のうち、圧電材料は環境中に存在する未利用の運動エネルギーを電気エネルギーに変換します。航空機・宇宙船などの移動体に生じる振動を利用し、IoTセンサを駆動できれば、外部電源や電池交換が不要になり、航空・宇宙システムの自律性と信頼性が向上します。
東北大学大学院環境科学研究科の成田史生教授(工学部材料科学総合学科兼担)のグループは、英国リーズ大学 のYu Shi教授と共同で、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)(注3)電極からなる新しい圧電振動発電デバイスの開発に成功しました。CFRP電極は優れた導電性を有し、圧電材料である圧電ナノ粒子をプラスチックに分散した圧電ナノコンポジットの機械的特性を劇的に向上させ、共振時の出力電力を安定に確保することができます。
今回開発した片持ちはり(注4)形状の炭素繊維強化圧電振動エネルギーハーベスタは、固定端に0.05mmの変位振幅を与えた場合に約90μW/cm3の高出力電力密度を示し、LED電球を容易に点灯させることができます。また、この技術はワイヤレス通信システムの電源として大きな応用可能性を示し、IoTセンサ分野はもちろん、スポーツ・レジャーや航空・宇宙の分野で、CFRPの新しい展開が期待されます。
本研究成果は2023年6月13日、ナノテクノロジーとエネルギーの専門誌Nano Energyに掲載されました。
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、超軽量で高い電気伝導性と優れた機械的安定性を有しており、スポーツ・レジャー製品(テニスラケット、釣り竿など)、航空・宇宙システム、自動車、船舶など様々な分野で応用されています。一方、身の回りにあるわずかな振動や電波を電気に変える環境発電は、電源フリー・電池交換不要のIoTセンサを開発するための技術として注目されています。CFRPにひずみを電気に変える圧電性をもたせることで、CFRP製品のマルチファンクショナル化が実現し、振動や衝撃を受けるスポーツ・レジャー製品や航空・宇宙システム、自動車、船舶などの移動体に発電機能を付与することが可能となります。
今回開発した炭素繊維強化圧電振動エネルギーハーベスタ(C-PVEH)は、平均粒径が約200 nmの圧電ナノ粒子(注5)(ニオブ酸カリウムナトリウム:KNN)をプラスチック(エポキシ樹脂)に分散した圧電ナノコンポジットにCFRPを積層したもので(図1)、CFRPを補強材および電極として機能させています。これにより、圧電性を損なわず優れた機械的特性が得られ、環境発電デバイスの性能と耐久性が向上しました。図2はC-PVEHを撮影したものです。
図1. 圧電ナノコンポジット/CFRP積層材料と圧電ナノ粒子。
図2. 炭素繊維強化圧電振動エネルギーハーベスタ(C-PVEH)と片持ちはり形状のC-PVEH。
図3(左)は、曲げ振動を与えた場合の出力電圧と周波数の関係を示したもので、固定端の変位振幅0.05mmの場合です。開回路(注6)状態で208Hz程度の共振周波数を示し、約8.45Vの最大電圧を達成しました。比較のため有限要素法による数値シミュレーション結果も示していますが、共振周波数は実験結果とほぼ一致しています。図3(右)は、曲げ振動による出力電圧と変位振幅の関係を示したもので、周波数208Hzの場合です。C-PVEHの出力電圧は、CFRPで強化されていない圧電振動エネルギーハーベスタ(PVEH)に比べるとかなり大きく、CFRP電極の有効性が示されました。このC-PVEHに電気抵抗を負荷すると、0.05mmの変位振幅で約90μW/cm3の出力電力が得られます。
図3. (左)出力電圧と振動数の関係。(右)出力電圧と変位の関係。
図4は回路の概略を示したものです。コンデンサの急速な充電やLEDへの効率的な電力供給を可能にします。また、曲げ振動で温度・湿度・加速度・大気圧のセンサ情報を無線で飛ばすことができます。今回開発したC-PVEHは出力が安定しており、小型無線通信機器に十分なエネルギーを供給することができ、幅広い用途や産業での利用が期待されます。
図4. C-PVEHと回路。
CFRPのIoT化には、様々なCFRP製品の共振周波数を把握し、それに合わせたデバイス設計が必要です。今後は、数値シミュレーションを併用し、様々な応用に対して振動発電デバイスの最適設計を行って、試作、振動・衝撃発電実験、信頼性・耐久性評価を行っていくことが望まれます。
今回の研究成果の一部は、日本学術振興会(JSPS) 研究拠点形成事業 A.先端拠点形成型(JPJSCCA20200005)と科学研究費助成事業 基盤研究(A)(22H00183)の支援を受けて得られたものです。またKNNは日本化学工業株式会社より提供を受けました。
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東北大学