持続可能社会を目指した
日本の伝統材料による環境分解材料の創製
次に紹介するのが、「日本の伝統材料」を生かした環境分解材料の開発研究です。 地球環境の悪化が深刻化していますが、その要素のひとつが石油などを由来とするポリマーです。ここでのポリマーとは、ポリエチレンやポリ塩化ビニールなどに代表されるプラスチックのことをいいます。
プラスチックには多くの利点がありますが、原料が石油であることとともに、自然界に還元されないという大きな問題があります。世界的に見れば多くのプラスチックが海洋に流出したり、消費国から東南アジアなどに持ち込まれて不法投棄されたりしています。さらには製品に含まれるマイクロプラスチックや、劣化してできたマイクロプラスチックが、海洋生物や人体に与える影響が懸念されています。
このようなことから「生分解ポリマー」と呼ぶ、微生物が分解してくれる代替プラスチックの研究が現在盛んに行われています。しかし研究の多くはポリマーを早く生分解させることに主眼を置いているため、強度や耐久性では大きく劣るものが一般的です。
そこで強度や耐性もあわせ持つ生分解ポリマーの複合材料を先駆けて作るというのが、私たちの目標です。そのためには今あるポリマーに生分解の機能を付与するよりは、今ある自然由来の生分解材料を強くさせるのが道筋として合理的ではないかと考えています。
一例としては和紙にPBS(ポリブチレンサクシネート)を重ねて融着させた複合材料です。これにより引っ張り強度が和紙単体より60%増し、生分解の早さは同程度というものもできています。 また石油由来の繊維が主流の中で、自然由来の絹糸を強化させることができないかという研究を行っています。具体的には蚕のエサにCNF(セルロースナノファイバ)を混ぜて与えることで、蚕が作る絹糸を強くさせるというものです。CNFとは木材から化学的、機械的に取り出したナノサイズの植物由来繊維です。この実験ではエサにCNFを7.5%加えたもので作られた絹糸では強度が1.5倍になっています。
このほかにも、い草を材料とする畳表や漆なども研究材料として取り上げています。 これらはまだ緒についたばかりですが、過去にフランスで仕事をしていた時から長年注目していました(写真2)。日本の伝統材料は、日本人以上に海外では大きな注目を集めています。これから日本の伝統材料を科学的に理解し,その魅力を国内外に発信していきたいです。
私の研究チームではこのほかにも、「圧電材料」や「磁歪材料」のマクロ構造の最適化と性能向上を目的とした研究にも取り組んでおり、同時並行的に進めています。
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2012年、ボルドー固体材料化学研究所在籍中、苦楽を共にした研究仲間と共に。左:オーストラリア人留学生(当時)・Evan SCHUMANN氏、右:フランス人博士学生(当時)・Emilien FEUILLET氏。
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