何がおもしろいのかを問い続け、
社会の役に立つ新材料を生み出す。
材料工学には、強度を中心とする力学的性質を利用する「構造材料」、そして、電気的、磁気的、熱的、あるいは光学的な特性を活用する「機能材料」という分野があります。「新素材」という言葉に導かれこの世界に足を踏み入れた私にとって、より魅力的だったのは機能材料の方。何かしらの機能を持つ多種多様な材料を生み出したい、という思いでこれまで研究を続けてきました。
学部4年次、磁性材料への興味から本間基文先生の研究室に入り、そこで取り組むことになったのが酸化物の研究です。本間研究室の主たる関心は超強力磁石の研究にありましたが、人気の研究テーマにくじでハズれた結果私に与えられたテーマは酸化物に関するもの。しかし、人間万事塞翁が馬、その研究を通して、酸化物のおもしろさを知ることとなったのです。電気を流さないというのが酸化物の基本的な性質ですが、元素や構造など作り方によっては金属並みに電気を流します。この場合、電子が流れるものもあれば、イオンが流れるものもあり、さらに、磁性を持つもの、持たないものも作ることができる。いろいろな組み合わせで物性を制御できるという酸化物研究のおもしろさを知ったことが、私の研究の原点となりました。
酸化物研究に取り組む中で新しいアイデアが生まれました。酸化物の場合、磁性を決めているのはイオンなどの配置です。つまり、イオンが動けば磁気も動く。磁場をかけて磁化を制御するのではなく、イオンの動きで磁化を制御できたらおもしろいのではないか。そのことを本間先生に提案したところ、「それはおもしろいね」と言っていただき、イオン伝導性フェライトの電気的性質と磁気的性質に関するその後の研究の成果を、学位論文としてまとめることができました。
博士課程2年目、本間先生の研究室から独立する岡田益男教授にお声掛けいただき、助手としてアカデミックなキャリアをスタートさせました。本間先生は磁石、岡田先生は水素吸蔵合金の分野で大きな成果を上げている研究者ですが、お二人に共通するのは、研究の自主性を重んじ、何がおもしろいのか、何がオリジナルなのかを問う姿勢でした。そして、これは東北大学の材料工学が誇るべき文化の一つだと思いますが、社会の役に立つ材料、まだ誰も作っていない新たな材料を生み出そうという雰囲気がどちらの研究室にもありました。
岡田研究室では、自身の酸化物に関する研究だけでなく、水素を貯めるための材料である水素吸蔵合金に関する研究にも取り組みました。研究自体とてもおもしろいものでしたが、その中で新たな気付きがありました。それは、酸化物も水素吸蔵合金も、金属と結合するのが酸素か水素かという違いがあるだけで、現象の理解としては大きく変わらない、ということ。この経験は、その後の研究の幅を広げ、特異な電子構造、配位構造や結晶構造によって革新的な機能を発現する酸水素化物や酸窒化物に関する研究など、現在進行中の研究テーマにもつながっています。
助手となり5年が経った1998年、私に大きな転機、そしてチャンスがやってきました。それが、日本学術振興会(JSPS)の海外特別研究員としての研究滞在です。滞在先はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)、受け入れてくださったのは、燃料電池に使われる混合導電性電極材料や電解質材料の研究で世界的に知られるHarry L. Tuller教授でした。
(図/写真1)
「MIT DMSE研究滞在の成果の一つは、世界中の研究者とのネットワークを形成できたことでしょうか。最近も固体酸化物形燃料電池(SOFC)などに用いる混合導電体の国際共同研究で顕著な業績を上げています。また、研究室の学生さんの留学も、交流のある研究者のラボが受け入れ先となってくれることも多いですね」。