発表のポイント
- 酸化物系の固体電解質は焼結に1500˚Cを要する課題があった。
- 900˚C以下での酸化セリウム注1の焼結にはLi-Si-Al系酸化物添加が有効。
- 3Dプリンタ等により形状自在の燃料電池や全固体電池の高速作製が期待。
燃料電池や全固体電池を形状自在かつ高速に作製するために、3Dプリンティングとレーザー焼結法を組み合わせた付加製造注2技術が注目されています。しかし、従来の方法でこれらの電池に必須の酸化物系固体電解質を焼結するためには、1500℃程度の高温と長時間の処理が必要であり、付加製造は困難でした。東北大学大学院工学研究科の石井暁大助教、高村仁教授らの研究グループは、代表的な固体電解質である酸化セリウムを金属並みの低温(900°C以下)で焼結する条件と、そのメカニズムを解明しました(図1)。この知見の活用により、脱炭素技術として重要な燃料電池・水素製造セルや全固体電池の高速作製が期待されます。
本成果は2021年12月3日にActa Materialiaにオンライン掲載されました。
図1 低温で粒成長した酸化セリウム
酸化物などのセラミックスからなる固体電解質を用いた燃料電池・水素製造セルや全固体電池は高い効率を示します。しかし、その製造には固体電解質となるセラミックスを1500 °C程度の高温でひび割れなく焼結させなければならず、膨大な電力と時間を要します。そのため、本格的な普及は進んでいません。そこで、簡単かつ迅速な固体電解質の作製のために、3Dプリンティングとレーザー焼結法を組み合わせた付加製造が試みられていますが、固体電解質の焼結温度が高いため、密度が向上しない、熱応力により割れるなどの課題がありました(図2)。
図2 燃料電池や全固体電池の付加製造イメージ
これまで、固体電解質の焼結温度の低温化を目的に、世界中で様々な研究が行われてきました。代表的な固体電解質である酸化セリウムでは、微量のリチウム添加が焼結温度の低温化に有効であることは知られていましたが、研究グループ毎に得られる効果や結論が異なり、酸化セリウムの低温焼結が可能になる条件やメカニズムは不明でした。
本研究グループでは、リチウムを微量添加して低温焼結した酸化セリウムの組成と微細組織を精密に分析しました。すると、リチウム添加酸化セリウムにはシリコンとアルミニウムが含まれており、リチウム・シリコン・アルミニウムは酸化セリウム粒子の結晶粒界注3に存在していました。熱力学シミュレーションにより、このリチウム–シリコン–アルミニウム(Li-Si-Al)系酸化物の融点は855°Cと金属並みに低いことが判明しました。よって、酸化セリウムの低温焼結メカニズムには、この低融点の酸化物融液の出現が重要な役割を果たしていると分かりました(図3)。これまで、研究グループ毎にリチウム添加の最適量や効果が異なって観測されていたのは、酸化セリウムの熱処理過程で、酸化アルミニウムを多量に含む耐火物容器から意図せず導入されるアルミニウムの量が異なっていたためと考えられます。
図3 セリウム系酸化物の焼結を促進するリチウム–シリコン–アルミニウム酸化物融体
本研究により、金属並みの低温でセラミックス系固体電解質の焼結が可能になりました。この知見を活用し、3Dプリンティングなどの付加製造による燃料電池・水素製造セルや全固体電池の高速作製が期待されます。さらに、リチウム–シリコン–アルミニウム系酸化物融体は今回対象とした酸化セリウム以外の焼結困難な酸化物の低温焼結にも広く応用可能と期待されます。
雑誌名: Acta Materialia
タイトル: Insight into Low-Temperature Sintering of Samarium-Doped Ceria Mixed with Scavenging Lithium
著者: Akihiro Ishii, Hibiki Ishijima, Kosei Kobayashi, Itaru Oikawa, Hitoshi Takamura
DOI: 10.1016/j.actamat.2021.117529
注1 酸化セリウム
酸化物イオンのみが電気を運ぶ代表的な固体電解質。サマリウムなどの第2希土類元素を含むことで高いイオン伝導性を示す。
注2 付加製造
広く普及した樹脂の3Dプリンタの様に、材料を積層して形状を作製する方法のこと。金属やセラミックスの場合にはレーザーによる焼結と組み合わされることが多い。
注3 結晶粒界
微小な単結晶の間の界面のこと。一般に、単結晶とは異なる複雑な組成や原子配置からなる。
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東北大学
東北大学 工学研究科・工学部