発表のポイント
- 磁歪ワイヤとアルミニウム合金からなる衝撃発電複合材料の開発に成功し、2本の磁歪ワイヤを撚って埋め込むことで、単位体積当たりの出力電圧が増大
- 樹脂系の複合材料では耐えきれない衝撃にも耐えることができる
- 電池の使用・交換が難しい高温環境下でのモノのインターネット(IoT)化へ期待
自然界環境に広く存在する未利用の運動エネルギー(振動、衝撃など)から電気エネルギーを回収する環境発電が注目を集めています。東北大学大学院環境科学研究科(工学部材料科学総合学科)の成田史生教授グループと山形大学学術研究院(大学院理工学研究科担当)の村澤剛教授グループは、2本の鉄コバルト系磁歪ワイヤを撚ってアルミニウム合金に埋め込む技術を確立し、衝撃エネルギーを効率良く電気エネルギーに変換する軽金属複合材料を世界に先駆けて開発しました。これまで、逆磁歪効果を利用した振動・衝撃発電複合材料はエポキシ系母材に限られておりました。今回開発された金属母材の複合材料によって、強度が必要とされるアルミニウム合金製の自動車部材や高温環境で使用される輸送機器のエンジン駆動部からも電気信号が得られ、これらの部品に電源機能を付与することが可能となり期待されます。
本研究成果は、令和2年10月Physica Status Solidi - Rapid Research LettersのVolume 14、 Issue 10に掲載され、表紙でも紹介されました。
あらゆるモノがインターネットにつながるモノのインターネット(IoT)が全世界に破壊的イノベーションをもたらそうとしています。爆発的な勢いで増加しているIoT用センサの数は2030年に1兆個に達するといわれており、これらのセンサに電池を使用する場合、環境・資源・コスト面で極めて大きな社会問題となります。このため、自然界環境に広く存在する未利用の運動エネルギー(振動、衝撃など)から電気エネルギーを回収する環境発電が注目を集めており[1]、センサ駆動やデータ通信用の自立電源としての利用が期待されています。
今回開発した「撚り注1構造型」衝撃発電複合材料(図1)は、1回の衝撃荷重(変位速度2mm/秒)で1cm3あたり約0.2Vの出力が確認されました。この値は、撚り構造型でない衝撃発電複合材料[2, 3]と比較すると、出力電圧が4倍増大しています。また、10倍以上の電力が期待され、バイアス磁場注2の方向を工夫することで出力はさらに増大します。IoTなどの無線センサ用電源としては十分な電力が得られており、衝撃を受けても破損しにくく比較的高温環境でも利用できる点が特徴です。
今回埋め込んだ鉄コバルト(Fe-Co)ワイヤは東北特殊鋼株式会社の協力により製作された直径0.5mmのものであり、鋳型と治具の材料および形状を工夫したことにより、数本のワイヤを直線状に立てたままでアルミニウムの鋳造注3に成功しました。また、作製条件(作製時の温度や時間など)について研究を積み重ねることで、強度に大きな影響を与えるFe-Coワイヤとアルミニウム合金母材の界面の制御を可能としました。
図1 「撚り構造型」の衝撃発電軽金属複合材料
今回開発した「撚り構造型」の衝撃発電軽金属複合材料を利用することにより、これまで困難だった大きな衝撃荷重下や比較的高温環境下でもエネルギーを回収することができます。例えば、強度が必要とされるアルミニウム合金製の自動車部材や輸送機器のエンジン駆動部での応用が期待され、今後は、自動車・船舶・航空機などの実働外力と使用環境を考慮して衝撃発電軽金属複合材料の設計・開発・評価を実施することが望まれます。
なお、今回の研究成果の一部は、日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究(A)の支援を受けて得られたものです。
タイトル: Twisting and Reverse Magnetic Field Effects on Energy Conversion of Magnetostrictive Wire Metal Matrix Composites
著者名: Zhenjun Yang, Zhenjin Wang, Manabu Seino, Daisuke Kumaoka, Go Murasawa and Fumio Narita
雑誌名: Physica Status Solidi - Rapid Research Letters
DOI: 10.1002/pssr.202000281
注1 撚り:
ワイヤの束をねじること。本研究では、2本のワイヤに撚りをかけて1本にしている。
注2 バイアス磁場:
安定した出力を得るために、あらかじめ磁歪材料に与えておく外部磁場。
注3 鋳造:
金属を溶かして鋳型に流し込み、その後冷却して製品をつくること。
リンク先:
東北大学