ニュース

研究成果

超軽量形状記憶マグネシウム合金の開発
-従来材に比べ約70%の軽量化-

東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻の小川由希子博士後期課程学生、須藤祐司准教授、安藤大輔助教、小池淳一教授の研究グループは、形状記憶特性を示すマグネシウム合金の開発に成功しました。本発明形状記憶マグネシウム合金の比重は、従来の形状記憶合金(ニチノール)に比べて約1/3と極めて軽く、航空・宇宙材料など軽量性が求められる工業製品への適用が期待できます。

この研究はサイエンス誌2016年7月22日号に掲載されます。同誌は世界最大の総合科学機関である米国科学振興協会(AAAS)により発行されています。

1.研究成果の概要

東北大学の研究グループは、マグネシウム(Mg)にスカンジウム(Sc)を添加したMg-Sc合金が従来Mg合金の結晶構造である最密六方構造(hcp)に加え、体心立方構造(bcc)を取り得る点に着目し、その相変態を利用したMg合金の高機能化に関する研究を行ってきました。Mg-Sc合金は、従来のhcp型Mg合金に比して高強度・高延性のバランスに優れる事を見出してきています。その研究の中で、bcc型Mg-Sc合金がマルテンサイト変態を起こし、形状記憶特性(超弾性効果、超弾性効果)を発現することを見出しました(図1)。Mg-20 at% Sc合金の場合、-150 ˚Cの低温下において4%以上の超弾性歪みを示すことを確認しています。

図1. -150 ˚Cの低温下で変形を加えた後、除荷した際の応力‐ひずみ曲線3%ひずみに対し、約94%の形状回復率を示す。

図1. -150 ˚Cの低温下で変形を加えた後、除荷した際の応力‐ひずみ曲線3%ひずみに対し、約94%の形状回復率を示す。

これまでに、チタン-ニッケル系、銅系、鉄系、ニッケル系、コバルト系およびチタン系など、様々な合金系において形状記憶特性が見出されてきましたが、マグネシウムなどの軽量元素を主体とする超軽量合金においては、未だ報告はありませんでした。本発明形状記憶マグネシウム合金は、従来の形状記憶合金(ニチノール)に比べて約70%軽く、航空・宇宙材料など軽量性が求められる工業製品への適用が期待できます。

2. 成果の意義

形状記憶合金とは、ある一定温度で変形しても元に戻る超弾性効果や変形後一定温度に加熱することで元に戻る形状記憶効果といった特異な現象を示す合金を指し、携帯電話のアンテナや眼鏡のフレームといった私たちの生活に身近な所から、カテーテルガイドワイヤーやステントといった医療製品まで幅広い分野で使用されています。更に、近年では、ロケットや宇宙船などの振動吸収部品や自己展開可能なフレームとして注目されています。一方、ロケットや宇宙船の燃費向上や打ち上げコスト削減のために材料部材の軽量化が切望されています。一般的に、航空・宇宙輸送システムの燃費は軽量化により飛躍的に向上し、また、ロケットの宇宙への打ち上げコストは、1kgの軽量化で100万円程度削減できると言われています。通常、材料を薄く・細くすれば軽量化が可能ですが、強度不足が懸念されます。

本発明の形状記憶Mg合金の比重は2程度と、従来合金よりも70%程度軽く、また、従来Mg合金よりも高強度かつ高延性を示すことが既に分かっています。それ故、材料強度や加工性を犠牲にすることなく、形状記憶合金部材の軽量化が可能であり、航空・宇宙産業の発展に大きく寄与すると考えられます。特に、低温下での使用が必要となる宇宙用材料としての応用は大いに期待できます。

また、形状記憶Mg合金は、ステントなどの医療デバイスへの展開も期待できます。現在、ステント用材料として超弾性ニチノールが注目されています。超弾性ステントは、柔軟かつ形状保持性を有するため、血管内への輸送および留置が容易ですが、恒久的留置による再狭窄が懸念されています。一方、Mgは生体分解性を有する事から、生体分解性超弾性マグネシウムステントといった新規高機能ステントへの適用も視野に入ります。

今後は、本合金の実用化に向け、合金組成の最適化による動作温度の上昇や本合金の生体適合性などを評価していく予定です。

掲載情報:

筆者: Yukiko Ogawa, Daisuke Ando, Yuji Sutou, Junichi Koike
タイトル: A lightweight shape-memory magnesium alloy
雑誌名: Science
doi: 10.1126/science.aaf6524

謝辞

本研究は、東北大学学際高等研究教育院およびJSPS科研費15H05549の助成を受け遂行されました。